I know I’d go back to youとセレーナゴメスは言い、
ルイトムリンソンも just keep on coming back to you しました。
忘れられないから猫にでもなってでも現れてほしいと謳ったあの歌も記憶に新しく、一緒にいて居心地が良かった昔の恋人のもとに戻りたいという気持ちは世界共通なのでしょう。
でも、それは恋愛だけに限った感情なのでしょうか。
おそらくそんなことはなくて、つまり、もっと普遍的な感情なのではないかと、もっと万物に対してこういう気持ちを抱くのではないかと思うんです。私が先日読んだ本はまさにそんな感情を人種問題、アイデンティティ、故郷というキーワードの中に織り込んだタペストリーのような作品でした。
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェという作家によって著された長編小説『アメリカーナ』です。
著者チママンダ・ンゴズィ・アディーチェは「男も女もフェミニストじゃなきゃ」のTEDトーク、エッセイでも有名で、その言葉はディオールでも同名ロゴになったほど。おととしニューヨークのパブリック・ライブラリーに行ったとき、ミュージアムショップでもロゴバックになっていたことをよく覚えています。(もちろん購入しました)
1977年ナイジェリア生まれで、2007年『半分のぼった黄色い太陽』でオレンジ賞受賞。13年本作『アメリカーナ』で全米批評家協会賞を受賞しています。
他にもいくつもの素晴らしい小説を書いているので、時間があるときにまた紹介していけたらいいなと思っています。
いずれの作品にせよ、彼女の描くストーリーに共通するテーマは人種、性、歴史、文化。身の回りにあって人間を社会の中で形づける要素です。
本作『アメリカーナ』もその例にもれず、移民問題、切実な人種差別、ビザ取得の困難などの問題が物語の下地となり、その解決に立ち回る主人公が描かれています。さらに、わりと純粋でわかりやすいラブストーリーを主に3か国で展開する、そんな話です。下記ストーリー:
初恋の人、自分をいちいち説明する必要を感じなかった唯一の相手、彼はいまや結婚して一児の父親だ。
高校時代に未来を約束した恋人オビンゼと離れ、イフェメルはアメリカに旅立つ。彼女を待っていたのは、階級、イデオロギー、地域、そして人種で色分けされた、想像すらしたことのない社会だった。大学に通いながら職を探す毎日。やがて彼女は失意の日々を乗り越えて、人種問題を扱う先鋭的なブログの書き手として注目を集めるようになる。一方オビンゼは、アメリカ留学をあきらめ渡英するも、不慮の出来事をきっかけにナイジェリアに帰郷。不動産取引で巨万の富を得て、美しい妻や娘と優雅に暮らしている。かつての恋人たちは、いつの間にか別々の道を歩いていた。(Amazonより)
数ある書評の中でも、「これは典型的な近代の恋愛小説だ」とか「移民問題、人種について当事者としてリアリティある鋭い視点でかかれた本だ」というこの2つの感想がほとんどでした。
冒頭の話に戻り、私はこの物語に「戻る」という視線を提示したいと思います。
昔の彼氏のもとに戻る、自分の生まれた国に戻る、という2つの戻る現象がこの本の中で起こっています。
人生を形作る根本的なものは「誰と、どこで、どう生きるのか」ということで、その選択で人は幸せを感じたり感じなかったりするのだと思うのですが、ここではその根本的なものが全て物語の最初と同じに戻って終わります。この分厚さでまさか結局戻って終わるのかという感じではありますが、まあその過程が大事だということです。
そこで考えるのは戻れる場所があるということ。最近のエルサレム問題もそうですが、自分の戻る場所がなくなることほど怖くて、精神が混乱することもないなと思います。主人公はアメリカにわたって苦労をしますが、心の奥底に戻る場所があるという安心感で色々冒険できたのかなと。作中では人種について鋭い視点で分析するブロガーになるのですが、そういう人を分析することとか俯瞰してみることって、自分自身に余裕がないと出来ないと思って。余裕があるか気づいているかどうかは謎ですけれども。
反対に英語ではburn one’s bridgeという言葉もあってこれは橋を燃やす=来た道を戻れなくして逃げ道を捨てること、吹っ切ることを表すのですが、同時に過去を断ち切り、未来への決断をすることの意も含んでいます。洋楽で耳にすることが多いです。日本語だと「背水の陣」と出てくるのですがそれよりももう少し軽いニュアンスだと思います。今回の主人公は橋をちゃんと残したんだなと思います。
私が読む本とか、映画の主人公は結構焼き切るタイプが多くて、今回はそれが新鮮でやたらと記憶に残りました。かくいう私も特に恋愛は不毛地帯になるまで焼き切るタイプなので、少しうらやましくも思ったり。まあそういう意味でかなり心に刺さった物語です。ちなみに二段式500頁とかなりの大作です。

いつかこの本を読んだことをある誰かと妻子がいるのに結局高校時代の恋人に戻る男はどうなのか、とか反対側からの視線で話が出来たら楽しいなあと思います。ナイジェリアの教育についてとか、現地でも白人の血が混じっている方が人気者になる話とか、もっと書きたいことはたくさんありますが、まとまらないので今回はこの辺にしておこうと思います。
読んだ方がいらっしゃったらコメント下さるとうれしいです!
さて、久しぶりに少し長い文章を書いたのですが、あまりにも書けなくて驚きました。ただ本だけ読んでいれば書けるってわけではないですね…たまにTwitterからのノートなどでものすごく「読ませる」人っていますけど、あれはなんなんでしょう。そういうのが文才というのか、センスというのか…。今年ももう半分が終わりましたが、これからはただ読むだけでなく、読ませる文章力を少し意識していきたいと思います。