敬愛する山崎豊子先生による、いわゆる戦争三部作、『不毛地帯』『大地の子』『二つの祖国』を約半年かかって読み終えました。頁数にして約4500頁、決して軽くないテーマを読了したことにある種の高揚感と達成感を感じています。
実家でもずっと戦争の話をしているのでそろそろ家族にも疎まれていますし、身近にこれについて語る人がおりませんので、いっそのことこのブログにまとめて、勝手な満足に浸ろうと思っています。
私は大学在学中、学部生4年の時に日本文学の授業を取っておりまして、前期のテーマが「日本文学における女性の表象」、後期が「原爆文学」でした。もちろん前期に惹かれてその教授のクラスを公聴していたんですけど、その面白さやなんの。仏文の授業とはまた違う、自分自身もう完璧に理解できる、つまり母語で書かれた文学を分析する魅力は筆跡を尽くしがたいものがありました。そんなわけですっかりその教授の授業にハマってしまって、思いがけず原爆について学ぶことになってしまったのです。つまりもう2年前からなんとなくですけど、日本における原爆とはという、戦後における日本の在り方みたいなのを考え始めていたのだと思います。
私にとって原爆は2つのトラウマがあって、1つは『はだしのゲン』、2つ目は『原爆ドーム』と『夕凪の街 桜の国』です。ゲンは小学校の図書館に唯一あった漫画で、手に取って一気に全巻(しかも何回も)読み、とんでもないトラウマを引き起こしました。未だに周りの人が死んでいく絵も、まだ生きている人間から蛆虫を取ってあげるシーンの絵も覚えているくらいです。原爆ドームに行ったのはたしか中学生になってからなんですが、あの展示の恐ろしさと建物の残酷さ、それに対比する広島の街の近代的さに言いようのない恐怖というか、見てはいけないものをみた感覚が未だに残っています。夕凪の~はそのミュージアムショップで買った漫画で、ドームからの帰りの車で読んでいたんですが、救いようのない理不尽さに唯一途中で読むのを辞めた漫画でした。
先の戦争、つまり第二次世界大戦はその原爆を引き起こす直接の理由で、おそらく私はこのテーマを日本人として一度はしっかり学ばないといけない、避けては通れなかったテーマだったと思います。そんななか思いがけず『沈まぬ太陽』で山崎先生と出会ってしまい、2021年上半期はそういうことをより深く考えるきっかけになりました。
『不毛地帯』は今年読んだ中で最も印象深く、かつ衝撃を受けた作品でした。
主人公の壹岐正は陸軍士官学校を主席で卒業し、大戦中は大本営の作戦立案参謀というエリート。シベリアで不当に11年間抑留、強制労働を余儀なくされ、ようやく帰国。その参謀としての能力を買われて商社に入社し、日本の防衛という強い信念を持ち、戦後の荒廃から立ち直る日本でビジネスマンとして第2の人生を進み始めるというストーリーです。
異例の出世をするものの、権力抗争、金、汚職、シベリアでのトラウマ、正義とは何かという問題に常に囲まれ、精神的な飢餓状態、つまり不毛地帯に陥り、果たして人生とはなんなのかという問いを真摯に、無口に考えるそんな主人公を取り巻く話でした。
緻密な取材と圧倒的な情報量とその描写、そして美しい日本語に息つく暇もあたえない圧倒的なストーリー構成。そんな中に描かれる一人の男の生き様。泥臭さと強い信念の高潔さが織りなすその人物像にすっかり振り回され、また魅了されました。
私自身毎回の感想はひどいもので、良い人間こそ理解されにくいという典型のようです。
第1巻:戦後のシベリア抑留、私の曾祖父たちも連れて行かれて強制労働させられていたのに、なんでもっと早く調べなかったんだ、なんで勉強しなかったんだという気持ちでいっぱい。
この本がどこまで現実なのかは分からないけど、目を背けたくなる出来事を教えてくれてありがとうという感じ…2巻からは日本の商社での闘いが始まるらしく、それをGWに読むのを楽しみに仕事頑張ります。https://www.instagram.com/p/COMF7mQjzHN/?utm_source=ig_web_copy_link
第2巻:不毛地帯、2巻。1作目とは異なり殆どが戦後の商社(現代)の話。うーんなんというか、前作ほどの面白さはなくて失速気味です。https://www.instagram.com/p/COacY8mjdpp/?utm_source=ig_web_copy_link
第3巻:3冊目。血が冷たくなるようなあのシベリア抑留の描写はすっかり影を潜め、主人公壹岐の商社での仕事ぶり、権力争い云々が描かれている。それにしても登場人物の男は1人残らず自分の妻に対して失礼過ぎる…。よく家族にこんな口がきけるなとおもう反面、確かにこれが当たり前に育ったら私の祖父もそりゃそういう性格になるよなとも思った。疲れたのでしばらくして4巻に入ります。https://www.instagram.com/p/COetdaMjaTa/?utm_source=ig_web_copy_link
第4巻:ここまで1ミリも感情移入出来ない主人公に出会ったのも珍しいなと思った。頭固すぎ…中途半端な恋愛にも断定的な口調にもうんざり。あと一冊…https://www.instagram.com/p/COq4N6EjKJK/?utm_source=ig_web_copy_link
第5巻:完走した、という言葉が相応しい、駆け抜けるように読み終えた5巻目。今まで読んだことがないくらい、ものすごくかっこいい締めでした😭途中投げ出しそうになりましたけど最後まで読んで本当によかった…作者の取材力、描写力に加えて、この構成、そして主人公壹岐の捉え方にただただ感服です。『沈まぬ太陽』で消化不良な終わり方をしていただけに圧巻。不器用だけど、ひたむきに生きる主人公壹岐に本物のエリートはなんたるかを教えて貰った気がします。https://www.instagram.com/p/COusXx8jaIh/?utm_source=ig_web_copy_link
名作に対してたった一言ずつという失礼極まりない感想で本当に申し訳ないのですが、読んでいる読者がその主人公像に騙されるくらい、この主人公の精神は稀にみる崇高さ、武士道の極みのような性格を持っているのです。
武士道については以下サイトを参考にさせていただいておりますが、(武士道精神に学ぶ7つの徳 – こころの探検 (kokoronotanken.jp))「義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義」からなる武士における道徳、美徳を持ち合わせるとはこういうことなんだなと思いました。つまりそれは人様に認められるためにパフォーマンスとして行う崇高な行動のようなものではなく、自分自身の為に全体の利益を考える=自分にとって不利益なことであろうと人間性を失うことなく、行動することです。
なかなか理解するのが難しいものの、内面の強さというのは、こういうことなのではないかと思いました。
5冊を全て読み終えた上で、当時の私は以下のような感想を持っていました。
戦後、高度経済成長期。敗戦した日本の商社でのエリートたちの血で血を洗うかなり泥臭い企業戦争の話。「勝てない戦争はするべきじゃない」「企業で自決は出来ない」等名言に溢れている本作でしたが、最も考えさせられたのは以下2点。
1、主人公壹岐の様な最初から最後まで芯がブレない、美しい志を持つ人もいる(武士の純真な美徳を煮詰めたような人)。めちゃくちゃかっこいいが、それってかなり理解されにくいなと。一番近いはずの読者でも最後まで騙され、なんどか軽蔑すらしてしまった。
2、何度も出てくる「血の小便」という表現。仕事で精神的/身体的に追い詰められこれ以上行くと死ぬというシーンで登場人物たちが話しているけど、これ女だったら生理が止まってるってことと同じ状態なのかなと思った。そうなると、一番働ける時期20〜30代に生殖能力も奪われる=どっちかを選ばないといけない。というのはすごく皮肉だなと思った。
この作品に出てくる会社の中にはお茶出し係以外で女性は出てこない。昭和だからしょうがないとは思うけど、「お前は仕事に口を出すな」と怒鳴られてるばっかりの女性たちを見るのは正直忍びなかったなあ。
https://www.instagram.com/p/COz2REUjGlm/?utm_source=ig_web_copy_link
自分で言うのもアレですが、こういった局面でも女性の在り方について心を砕いていたのだと思うと私は本当に根っからのフェミニストなんだなあと思います。
今までやれ崇高だ、武士だ、と語っていた主人公壱岐の周りでは、いい人も悪い人も良くも悪くもさまざまな人間が取り巻いていくわけなんですが、当然ながら彼にも家族がいるわけです。勿論11年間の抑留の間に生きているのか死んでいるのか分からない夫を待つ妻も。この奥さまが、また昭和の良妻賢母、銃後の守りのお手本のようによくできた美しい女性なんです…みなさまもお分かりかと思うんですが、そういう女性が自分自身のやりたいこと、希望などを声高に叫ぶわけもなく、案の定「女は黙れ」心配しても「仕事に口を出すな」で黙らせられてしまう様子を見ているのは気持ちの良いものではありませんでした。
また、それに加えて若い女と不倫もする、そしてそのせいで妻が死ぬという最悪な展開も3巻か4巻でありまして、そうなってくるともう武士とはそもそもなんなのか。という話に戻ってしまうのですが、まあそういう風に徹底的に女が軽んじられたシリーズではあります。
さて、この『不毛地帯』は何度も繰り返しドラマ化されているようで、一度新しいもの(2009)ですと主人公壱岐を唐沢寿明が演じています。まだドラマは拝見していないのですが、正直イメージにぴったりなのでものすごくいいキャスティングだなと思いました。
残念ながら、視聴率はあまり芳しくなかったようではあるのですが(ドラマ『不毛地帯』の低視聴率から見える、テレビの不毛地帯 – ITmedia ビジネスオンライン)、反面ネット上での評判は悪くはないようです。単に視聴者へのPRが不十分でその作品の魅力を伝えきれなかったのが視聴率低迷の原因かなと思います。
この作品は戦争についてだけではなく、むしろその後の商社での働き方の方が今日取り沙汰されているような話なんですが、今回は「戦争三部作」についてですので、あえて戦争とその主人公の人物像にフォーカスして考えてみました。本当は大本営について、とくにポツダム宣言後直後の日本軍の動きについても大変興味深かったので深掘りしてみようかと思ったのですが、そっちの方については結構ブログにまとめていらっしゃる方が多かったのと、情報量も意見も多く収拾がつかなくなりそうなのでやめておくことにしました。
戦争三部作、次回は2作目『大地の子』についてまとめます。
いわゆる中国残留孤児となった主人公の視点から見た、戦後の中国での日本人の扱いが目を覆いたくなるくらいキツいのですが、今まで習ってきたことも学んだこともない世界を見たようで、色んな意味でカルチャーショックを受けた作品です。
中国は第二次世界大戦後にあの悪名高い大失敗「文化大革命」がおこるのですが、何故私は今までそれについて知らなかったのか、今の中国について知りたければあれを学ばずして何を知るのかというとんでもない衝撃を受けました。
今回はどちらかというと精神的な面に重視してブログにまとめたのですが、次回はもう少し個が集まって出来た国民性みたいなそういうものを考えていこうかと思います。
ご覧いただきありがとうございました。
ではまた次回。
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