半年前に友人が何気なく言った一言を思い出しました。
「この前ネットフリックスの『パリのエミリー(emily in paris)』を見たんだけど本当に(私に)似てるよね」という言葉。
まさかあのまぬけで常識のないエミリーと私のキャラが似ているのだろうか…とぎょっとして聞き返すと、やはりそうだと言います。

(死んでも着たくないダサいシャツ)
彼女は私のようにすべてをネガティブにとらえるわけではないのできっと良かれと思って、むしろ日本でエミリーが人気が出たポジティブな側面をもって褒めてくれたのだと思うんですけれども、見た瞬間に駄作だと思ったドラマだったので少しぎょっとしたことは否定できません。
この話を思い出したきっかけは、ひょんなことからパリにいるエミリーを批判する面白い記事をみつけたことです。下記をご覧ください。

https://ypsilonmagazine.com/archives/hideous-fashion-emily-in-paris/
流石に前頭葉の機能低下とサイコを疑うほどではないですが、自分でも色々思うこともあったのでブログにまとめてみました。
そもそもエミリーって誰なんでしょう?
『エミリー、パリに行く』というネットフリックスドラマの主人公です。
アメリカ・シカゴの会社でおそらくマーケティングか何かをしていたエミリーは、フランスに転勤。フランス語を一言も話せないが、現地の広告代理店でSNSのマーケティングをしながら一目惚れを繰り返す。一見洒落ているけど、シックさと個性のないファッション、それをパリで履いたら石畳を歩けないどころか一日で履きつぶす美しい靴が特徴です。

このドラマは人種・ジェンダー・カルチャー・多様性に異常なまでに気を使うネットフリックスオリジナルにしては珍しい、白人まみれのパリへの憧れに満ちた作品で、ある意味新鮮だともいえます。
実際、フランス人は意地悪なのか?
答えはウイでありノンです…
パリへの憧れと偏見に満ちた今作では、フランスの現地企業での同僚・上司を非難されない程度にステレオタイプに描くことに神経を注いでいる台本が特徴。そのギリギリ感が夜中に食べるジャンボアイスみたいな感じでかなり笑えます。
私が以前一時期にパリにいたことは何度かお話しましたが、たしかにこの質問を日本でされることは多くあるのでちょっと考えてみます。
何をもってフランス人というかという前提がそもそも難しいのと、その地域に住む人を勝手にカテゴライズするという考え方が私自身あまり好きではないのですが、
知り合った、知っている(著名人など)を含めたフランス人、彼らが共通して有するフランス人的概念は、「日本にいる日本人」と考え方・対人関係等全く異なると断言できます。
私が現地で、また日本の大学でフランスについて勉強し続けて感じたのは、徹底的な個人主義の崇拝、それによって形成されるやたら語りたがりで偏屈な性格と言ったところでしょうか…。
それがいじわるかどうかは本当に人によって異なるので、(確かにプライドが高い故にいじわるな人が多い印象は受けましたが)それはやはりウイであり、ノンであるとも言えるでしょう。
ただこのドラマのすごいところは「ステレオタイプ・いじわるフランス人」と「ステレオタイプ・おバカアメリカ人」の対比というか、フランスをバカにするに飽き足らず、アメリカも一緒にネタにするという高度なバカにする技術を駆使していることです。
このファッションセンスはいかがなものか
このドラマのファッションについての評価は完全に二分されていると思います。
つまり、オンラインとオフラインでダサい、ダサくない認定が違うということです。

オンライン上、SNSでのオシャレ大好き、ファッションオタク界隈(国籍・国問わず)のエミリーへの評価は「クソダサい」「センスない」「SATCの劣化版二番煎じ」が主流でした。
そもそもフランスのおしゃれ美学にはないものを敢えて選ぶセンス、つまり色鮮やかな服装・ブランドバッグ・ピンヒールはフランスで選ぶことはほぼあり得ないですが、それをフランスっぽいおしゃれとして着るアメリカ人的感覚に感心しました(皮肉)。

エミリーの内面の成長とリンクさせていくという狙いだと衣装担当が語っていますのでファッションをディスのはやめて、シーズン2はまともな服を着ることに期待しましょう。
反対にこのドラマ放送時の私の同僚ですとか、インスタだけ繋がっている人々は「いいドラマ!」「超おしゃれ!」「おフランス最高!」という感じだったのでなんとも言えず…ブログで鬱憤を晴らすことにしました。人のセンスをけなしちゃいけないって誰かが言ってましたし。
おそらく私を含めた日本人は、なんだかんだ言って距離的にも遠い欧州的なものにめっぽう弱くて、見た瞬間に判断力が低下するのだと思います。人は自分にないものに惹かれるといいますしね。
ただ、それにしてもこのドラマの添え物程度の人種的配慮には苦笑するしかありませんが。

〈下記日本でのエミリー賞賛の記事〉
25ansのエディターやライターは果たしてフランスという国を知っているのかと心配になる記事:
生粋のアメリカンガールがモードの聖地、パリでファッションのスキルを磨いていく――。そんな“おしゃれ修行中”のヒロイン、エミリーと共にパリジェンヌのスタイルを学べるドラマ『エミリー、パリへ行く』が話題に。https://www.25ans.jp/fashion/trends/g35373354/emily-210216-vc/
こちらはコスモポリタン。ハースト家庭画報社の将来が心配になってきます:
豪華キャストが演じる個性豊かなキャラクターたちや、美しいパリの街並みに並んで魅力的なのが、観ていてワクワクするようなファッション!https://www.cosmopolitan.com/jp/beauty-fashion/fashion/g34421557/14-best-emily-in-paris-outfit/
何故ヒットしたのか?
他のネットフリックスの在り方=「なんとなくつけておくもの」と同様、日常に日々問題が起こるこの世界で、何も考えずただぼーっと見れる存在は孤独を恐れ、沈黙を恐れる我々近代人の精神安定剤と言えるでしょう。
気づけば視聴者は、親知らずを抜くために20分前に麻酔をかけられた状態で歯科医を見るようにぼんやりと画面を見つめているのだ。https://news.mynavi.jp/article/20201023-1431953/
1話25分間はぼーとしてるとあっという間で、お風呂に入ってるとき、ご飯をつくっているとき、に流し見するのにぴったりです。
また、シャンプーLAXのCMのようにあまりに現実味がなさすぎるので、脳が疲れた人にぴったり。なにも考えなくても済むほど幸せなことはありませんから…。
そういう意味で毒を持って毒を制す、解毒剤としての役割をこのドラマは背負っていると言えます。
本当のパリはどこに?

同じネットフリックスでも、舞台がパリの良質なフランスのドラマはたくさんあります。私が特におすすめしたいのは2作。「エージェント物語」と「ルパン」です。
「エージェント物語(Dix pour cent)」は冒頭で紹介したブログでも紹介されていました。
フランスの芸能事務所のエージェントたちの話でパリはもちろん人間も美化しすぎていないところがリアル。Dix pour centは10%という意味でエージェントの取り分の金額です。
たしかに、仕事が出来る設定のエージェントはパリ市内の結構大きい部屋に住んでいて、そういうところも妙に現実味があるなと思ったり。保育園問題、働くママ問題は日本と大差なくて、そういう視点でも楽しめる作品だと思います。

「ルパン(原題:Lupin)」はめちゃくちゃかっこいい男性が主人公。

あの怪盗紳士アルセーヌ・ルパンのモダンバージョン言えるでしょう。主人公アサンはパリで育ったセネガル系の移民。汚職で濡れ衣を着せられた父親の仇を打つという話が展開されます。
ルーブルから始まる知的でスマートな計画の数々が優しい主人公によって実行されていく…正直言って、彼のスニーカーコーデにも賢さにもメロメロです。
色々調べてみると、やはり本国でも世界中でも大ヒットしたようです。
https://www.harpersbazaar.com/jp/lifestyle/movie-tv/a36748679/lupin-netflix-ratings-210617-lift1/
主人公オマール・シーは最強の二人のドリス。本職はコメディアンだそうで、今度彼のコメディを見てみようと思いました。
さて話はエミリーに戻って…表面的で中身がない、って本当にコロナ禍を表しているなとも思って、やはり大衆芸能と社会状況のつながりは深いんだなと改めて感じた本件でした。
そしてエミリーは散々ディスりましたが、これを書きながら改めてパリに行きたいと思いました…やはりパリにはその「憧れ」だけで人に夢を与えるような、現実逃避をさせるような魅力がある都市ですし、そういう対象になり得る場所が他にあるでしょうか?
コロナが終わり次第有給をかき集めてパリに行って、リッツに泊まってラドゥレでマカロンを食べて、ルーブルの広場で1ユーロおじさんからエッフェル塔のキーホルダーを買って、トロカデロのレストランでオニオンスープを飲んで、オルセーでフランソワーズポンポンのシロクマ像を観たい…
しばらく夢を見続けていますが、なかなか難しそうです。
久しぶりにこの曲を聞いたら懐かしくて泣きそうになりました。またパリに住まなくちゃ…
最後に私の好きなエミリーネタをどうぞ。
(『プラダを着た悪魔』で頑張ったのにパリに行けなかったエミリー、彼女こそがパリに行くべきだったという話。)

というわけで今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。Au revoir!
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