K-Ballet Company:永遠のロミオとジュリエット

先日数年ぶりに熊川哲也率いるK-BALLET COMPANYの舞台を鑑賞してきました。素晴らしい舞台に大満足で、はじめてバレエを見て涙を流しました。

Nozomi Iijima(@nozo0806) • Instagram写真と動画

舞台観賞自体は昨年の夏ぶり。えらくモダンなオペラのカルメンを観て激高し、怒り狂って書いたブログはこちらです:


今回の『ロミオとジュリエット』、改めて感じたのは計算されつくした舞台演出と卓越したダンサー、生のオーケストラの完璧な調和はより原作の美しさを際立たせるのだなということです。

言わずと知れずあの有名なストーリーの出会いから死までは、わずか五日間。そしてジュリエットはまだたったの13歳…。この物語の肝は二人の男女の性急な恋愛であり、(もちろんストーリーの要である敵対する家族同士という外部環境の焚き付けもあるものの)Kバレエの世界では二人の精神性に焦点を当てた演出が際立ちました。

そのまぶしいほどの若さ、純真さ、花火の閃光のような一瞬の気分の盛り上がり、また女性側の意志や自我の強さがはっきり感じられるところは、三島由紀夫の『夏子の冒険』を思い起こさせます。でも16世紀に著されたシェイクスピアの原作では、笑劇的でいくぶん粗野とも見えるような冗談、とくに性的な言葉遊びが非常に多く用いられているそうです。*1 ちょっと驚きですね。

さて、そんな主役二名をダンサーは見事に体現していました。今回のダンサーは下記の通り。

ジュリエット:飯島望未
ロミオ:山本雅也

K-BALLET COMPANY Official(@k_ballet_company_official) • Instagram写真と動画

飯島望未さん

今回主役を演じた飯島さんは、大阪の名門ソウダバレエスクール出身、2007年米国のヒューストン・バレエ・アカデミへ留学し翌年ヒューストン・バレエへ入団。一時スイスのチューリヒ・バレエへ移籍するものの再度ヒューストンへ復帰、19年には同団プリンシパルに。昨年夏に帰国し、Kバレエへ入団し今に至るというご経歴。

ヒューストンバレエ(Houston Ballet)はアメリカで4番目に規模の大きいバレエ団で、彼女は日本人として3番目のプリンシパルだそうです。

シャネルのビューティーアンバサダーも努め、フォロワーは10万人弱。ファンからは「のぞ様」と呼ばれ、私の周りでもファンがかなり多い印象です。小さい顔にチャーミングな笑顔、細長い手足はまるで猫のよう。オフの時は全くバレエのことを考えない」と断言する姿や、「バレエ界は閉鎖的だ」とはっきり述べる*2 今まであまり日本で見たことのないバレリーナです。

Nozomi Iijima(@nozo0806) • Instagram写真と動画

まさにガールクラッシュと呼ぶにふさわしいカッコよさ。川端康成をよく読まれているというネット記事もあったのですが、繊細な心理描写という点で影響を受けているのかなと思うと少し感慨深いです。バレリーナとしてはかなりリベラルな彼女に、13歳で結婚するジュリエットやオーロラ、若干ステレオタイプ気味なロシアやアラビアの踊りなど、古典バレエにおけるストーリー展開や表現についてどう思っているのか少し気になるところでもあります。

たかがバレエ、されどバレエ。

演技と技術の共存はしばし難しいものではありますが、私はその二つが合わさってこそ、バレエを時間芸術たらしめるのではないかと思います。色々な方からも言われていることながら、改めてジュリエット役の飯島さんの技術力と演技には心が震えました。


舞台装飾と演出

Kバレエといえばそのシックな舞台演出も有名ですが、ロミオとジュリエットのような重厚な舞台装飾を必要とする際には、よりその特徴を発揮するのかなと思いました。

特に仮面舞踏会のシーン。

「これから絶対になにかが起きる」という、色々な意味での予感を感じさせる、まるで物凄く楽しみなのに同時に恐怖を感じるジェットコースターの急降下前のようなゾクゾクした感じを幕が上がる瞬間から感じました。

プロコフィエフ(Prokofiev)作曲の有名な「仮面舞踏会」の不穏で荘厳な曲から幕が開き、格子模様に床にライトの下で、顔を仮面で隠した豪華な衣装の男女が踊っている。そんなダークで黒っぽい雰囲気の背景や衣装、照明でロミオとジュリエット二人が初めて出会います。

2人が出会うまさにその瞬間、周りはより暗さを増し、主人公たちのみスポットライトに照らされる…。下記はKバレエのインスタからの写真です。

K-BALLET COMPANY Official(@k_ballet_company_official) • Instagram写真と動画

ありきりといえばありきたりな強調方法でありながら、その瞬間、まるで映画のように惹かれる2人が白日の下にさらされる様子を見て、その荒々しさと直接的すぎるアプローチに思わず呼吸が止まりました。

「私は実に哲学も芸術も放擲して恋愛に直進する」*3

このシーンに際して私はこのーの言葉を思いだしました。二人とは関係なく、後ろに映る人々は永遠にワルツを踊り続けています。それもまた、恋愛など本人たち以外には何も関係のないことといった様子を表しているようで少し面白かったです。


私が観賞したのは二日目の19日(土)の夜の部で、ジュリエットは飯島さんでした。その後SNSで色々観ていたら、なんと21日の千秋楽の際に彼女がプリンシパルに昇格したとのこと!

素晴らしいジュリエットだった飯島さん、パンフレットの顔になるくらいなので、てっきりもう彼女がエトワール(プリンシパル)とばかり思っていたのですが…どうやら違ったようです。

K-BALLET COMPANY on Twitter: “【News!】本日3月21日、『ロミオとジュリエット』千秋楽のカーテンコールにて、芸術監督 熊川哲也が飯島望未のプリンシパル昇格を発表いたしました。 いかなる情勢においても、皆様に豊かなひとときをお届けするカンパニーであり続けるべく、プリンシパルとしての活躍を期待致します。 https://t.co/pjfcDMB7QY” / Twitter

しばしばkバレエはコンテンポラリーが弱点と言われがちですが、彼女はコンテンポラリーでも表現力が高く評価されているよう。そういう意味でもプリンシパルに相応しい存在であると思います。

何より舞台で映える小さい顔に飛びぬけた身体能力、圧倒的な演技力、これからの舞台が本当に楽しみです。とりあえず、次回のkバレエ観賞までにいいオペラグラスを買います!

そして今回は劇場に一人で観賞しに行ったのですが、そこで私が小学生~中学生の頃に憧れていて仲よくして下さっていたバレエスタジオの先輩に遭遇しました!休憩時間、帰りとお話してその場で感想を言い合えたのが本当に楽しかったです。母曰く、「本当にバレエが好きな人達って一人でも観に行くのねえ」とのこと。

閉幕後の帰宅時にバイオリニストが階段の踊り場で演奏しながら見送ってくれたことも初めてで、とても印象に残りました。14世紀のルネサンスのように、コロナ後の国内外の芸術活動の活発化に期待を寄せざるを得ません。

次回の舞台を楽しみに日々の仕事を頑張りましょう。ではまた、Au revoir!


<引用・参照>

*1:Mary Bly, ‘Bawdy Puns and Lustful Virgins: The Legacy of Juliet’s Desire in Comedies of the Early 1600s’, Shakespeare Survey 49 (1996): 97–109, p. 97.

K-BALLET COMPANY / K-BALLET FRIENDS

*2 シャネルも認めるバレエ界の異端児「飯島望未」とは!? | | Dews (デュース) (dews365.com)

*3 苫野一徳『愛』より引用、頁数思いだせず。


art art gallery nova アート アートギャラリー イラスト オペラ カフェ デザイン デザイン画 バレエ バンタン バンタンアカデミー バンタンキャリアアカデミー パターン パリ ファッション フランス フランス語 今日のフランス語 仏語 勉強 国内旅行 学校 家族 専門学校 専門学校日記 新国立劇場 旅行 服飾 服飾学校 服飾専門学校 東京 東京バレエ団 演劇バレエ 留学 美術 美術館 裁縫 語学 読書 読書メーター 銀座 駅前留学

2025年4月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

1 Comment

コメントを残す